滝沢志郎著・『雪血風花』
2024年02月23日00時00分
おなじみの「忠臣蔵」です。
が、大石や吉良ではなく、義士のひとり武林唯七(吉良にとどめを刺した人物)を主役に据え、義士の苦悩と決断、あるいは義士同士の友情とその家族との愛情を描いた時代小説です。
本書を通して問われるのは「忠か孝か」です。
主君への忠誠か親兄弟への孝行。
公人としてか、私人としてか。
ぶっちゃけて言えば仕事か、プライベートというところでしょうか。
ほんの30年ほど前までの日本人にも、忠の対象がありました。会社とか仕事とか。
ところが、その対象がくれる見返りはいつまで経っても雀の涙。日本人は忠に疑いの目を向けるようになりました。
その結果、現在ネット等で義士たちは「バカ殿に殉じたバカ」とか「テロリスト」と冷笑されるようになり、「年末特番・忠臣蔵」はついぞ放送されなくなりました。
こんな時世に「忠臣蔵」の本を書いた著者の意図はわかりません。
しかし、私が唸ったのは物語終盤、両国橋で主人公とある人物が交わす会話でした。現在の日本と日本人に通ずる問題が語られていると感じたのです。
まあ、あまり難しく考えなくとも、時代小説として非常におもしろい読み物でした。
登場人物どうしの掛け合いは、ときに軽妙ときに重厚で飽きさせず、描かれる背景は緻密で練り込まれています。
史実と創作が絶妙に融合しており、忠臣蔵や赤穂事件に興味のある方ならより楽しめると思います。
投稿者:どのばん
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